便利屋

第九話 シンジ参上





















「いい?出撃したら、ATフィールドを中和、ライフルを掃射よ。」

起動実験に成功したレイに命令を出すミサト。

その表情はひどく怒っていた。

「はい」

淡々と返事を返すレイ。

しかしその返事はミサトの耳には入っていなかった。

こころのなかではただひたすらに

(シンジの馬鹿!!!なんで肝心な時に居ないのよ!!!家出じゃないとしても、これは許されないことだわ!!!)

ミサトの勘違いはつい三時間前に判明していた。











「どうするのだ?シンジよ。」

「…どうしましょうかねぇ…。」

あごに手をやるという親父くさい動作をしながらシンジは首をかしげた。

表情には現れないが彼はひどくあせっていた。

「どうにかならないでしょうか?」

まさかアメリカに行っている間に使徒が来るなんてシンジは思ってもいなかった。

心配することはたくさんある。

ネルフは使徒に負けやしないか。

ミサトが暴走しやしないか。

ネルフが負ければ全てが終わりだと言うことはシンジも重々解っていた。

シンジも人並みに命が惜しいのだ。

今すぐにでもネルフに行きたい気持ちをこらえながらシンジはもう一度大統領に聞いた。

「どうにかならないでしょうか…。お願いです…。」

シンジのすがるような声を聞いて大統領は少し口を開いた

「君には守りたい人が居るのかね?」

シンジは少し間を空けて答えた。

「……いいえ。」

大統領は、穏やかにしかし厳しい声で問うた。

「それならば何故そこまでも急ぐ必要があるのかね?」

「それは…。」

シンジは考えた。

シンジには守りたい人はいない。でもだからと言って助けれる人を助けないような傲慢ではなかった。

しかし、自分は何故知らないうちにこうも使命感を芽生えさせてしまったのか。

最初はどうでもいい気持ちでやった仕事なのに。

シンジは必死で考えた。

そして、自分なりの結論を出した。

「守らなければならない人が居ます。」

大統領はそれを聞いて優しく微笑んだ。

「わかった、戦闘機を手配しよう。」

「っ!!ありがとうございます!!!…これで、助けられるのは二度目ですか…返さなければいけませんね。」

大統領は優しい顔を崩さずに言った。

「君は私に借りなど作っておらんよ。君には生きる意味を今一度考えさせられた。」

「は?」

大統領は呆けた顔で問い返すシンジを無視して進めた

「それに、今の君はいい顔をしておる。」

「いい顔…ですか?」

大統領は遠い眼をして言った。

「私が始めてシンジにあったとき。君は死んだ眼をしていた。」

「死んだ眼…ですか?」

「ああ、はたから見れば生き生きしているようにも見えたが、やはり生きる意味がなければ、人は死んでいるのと同じだ。」

「…そうかも…そうかもしれませんね。」

「…あのころの君が今の君を見ると…眼を疑うことだろうな…。それに、今は今まであった悩みがなくなった。そうじゃろう?」

シンジはあのときのことを思い出した。

もう一人の自分が

自分を受け入れてくれたこと。

そして、自分の心がそれによって軽くなったこと…。

「さすが大統領ですね。正解です。」

「はっはっは、じゃあ、行っておいで。君は私の息子だ。そう思っていい。私には家族が居ないものでな、君を見るとどうしても放っておけないのだよ。」

大統領はそう言ってから電話の受話器をとった。

「…もしもし?私だが、戦闘機を一機手配して欲しいのだが、副座の奴だ。ああ、私の息子を日本に届けて欲しい。ああ、ああ。すまないな。いつもいつも助かるよ。では。」

大統領はシンジのほうに向き直ると

「さあ、時は来た。行くが良い少年よ。」

























「きゃあああああああああ!!!!!!!」

加粒子砲で一撃の下打ち抜かれたレイ。

その悲鳴に発令所は騒然としていた。

「さ、下げて!!すぐに!!!早く!!!」

「あっは、はい!!!」

眼鏡をかけたオペレーターがそれに答える。

ボタンを押すとすぐにエヴァンゲリオン零号機は下がって行った。

しかし、情報収集を怠った代償は大きかった

「パイロットの心音パルス微弱!!いや、停止しました!!!」

「心臓マッサージ!!急いで!!!」

叫んで報告をするロン毛のオペレーターの報告に

リツコは大声で指示を出す。

エントリープラグの中では

レイの体が二、三度大きく跳ねる。

「パイロットの心音確認しました!!!」

「エントリープラグ排出して!!!」

リツコが指示を出すとエントリープラグは出てきて

中からLCLが排出される。

そして、扉が開くと、中からはぐったりとしたレイが出てきて担架で運ばれていった。

その騒動の中ミサトは渋い顔をした。

(シンジ君…あんた一体何やってるのよ…。)



















「ヘイ、ボーイ飛ばすぜ、しっかりつかまっていな!!」

「OK!!!」

シンジを載せた戦闘機は音速で飛び立った。

シンジとパイロットにすさまじいGがかかる。

「うっ、結構きついね…。」

そのGに少し顔をゆがめながらもシンジは使徒のことを考えていた。

もう一人のシンジからもらったのはこの世の終局までの道のり。

それが一瞬で過ぎ去っていった映像がシンジには見えたのだ。

もちろん使徒の情報などは知らない。

「…まだ負けてなきゃいいけど…。ミスター!!後何分でつくんだい?」

「あと、一時間半かね?」

「ありがと、それまで寝かせてもらうから!!!」

「ああ、でもこんなGでねれんのかい?」

「ぐーぐー」

「…いらねぇ心配だったな。」

シンジはこんな速さで飛んでいるのにもかかわらず十秒とかからずに寝てしまった。

「まったく、すげぇガキだぜ。」

パイロットはシンジにちょっとした嫉妬を覚えて、小声で悪態をついた。























「…目標は一定距離内に入った外敵を加粒子砲で排除、フィールドは肉眼でも目視されるほど強力なものが展開されています。」

「…攻守共にパーフェクト…まさに無敵の空中要塞…どうするのかしら…。」

ミサトは手に持っていたボールペンを口に当てながら考え込んだ。

この眼鏡のオペレーター…日向マコトは考え込む愛する上司を見て、緊張でも解そうかと思ったのか

「どうします?白旗でも上げましょうか?」

ミサトはそれを聞いてにやりと笑った。

ミサトはこんな気遣いができる部下を誇りに思っている。

そして、どんなことがあっても彼を昇進させて、一人前にしたいとも思っている。

しかし、それは恋愛感情ではなかった。

哀れ、日向…。

「ナイスアイディア…でもねその前にちょっとやりたいことがあんのよねん。」

そういって、ミサトは微笑んだ。

そのときだった、ドアが開いたのは。

「お、遅れました!!!」

ボロボロになったシンジが入ってきたのだ。

シンジがボロボロになったのは訳がある。

戦闘機で飛ばしてきたのだが、途中にはもちろん使徒が居る。

で、ネルフに行こうとした矢先に加粒子砲を撃ってきたのだ。

しかし、ベテランパイロットはそれをもかわし、使徒のレンジ外に退避。

そして、

「悪いがここからはお前一人で行ってくれ。あれが居ると無理。」

って言われたから、ネルフから約50km離れたところから走ってきたのだ。

その途中、戦時のミサイルの流れ弾が飛んできたりと、いろいろ災難があったのだ。

「ちょっと!!!シンジ君?!何処行ってたのよ!!!」

ミサトはシンジを見たとたんさっきまで見せていた笑顔を引っ込めていきなり怒り顔になった。

「いや、ちょっと仕事でアメリカに飛んできました…。」

シンジは信じられない答えをさらっと、しかし気まずそうに言った。

それを聞いたミサトは怒るを通り越して呆れてしまった

「アメリカって…あんた。」

ミサトの部下でも肝心なときに遅れてくる奴は居るが、まさか、アメリカに行っていたといういいわけをする奴は居ない。

彼女は頭を抱えてしまった。

「言い訳は後でする。今は僕にできる仕事を。」

「わかったわ。まずはこれを見て頂戴。」

ミサトは目の前にあるディスプレイを操作して作戦要項を映した。

そして、次々と説命し始めた。

説明が終わったときミサトは言った

「あんた皆に謝っときなさいよ、この作戦終わったら。」

「御意です。」

そんな気遣いを忘れないのもまたミサトであった。



今日の舞台裏

マコT「更新ペース、変わってません!!!」
シンジ「頑張ってるじゃん」
マコT「今回は、シンジ君が颯爽と登場しました」
シンジ「レイがもうやばいけど」
マコT「今回は、大統領がかっこよかったですね、自分で書いておいてなんだけど、結構好きなんですよ。」
シンジ「僕もあの人は好きですよ。」
マコT「シンジと大統領の間に何があったのかは外伝でやります」
シンジ「ま、早めにね。」
マコT「やばい…外伝でやりたいことが多すぎる。」
シンジ「ドンマイ」
マコT「でわ、次回予告。」
シンジ「ヤシマ作戦が発動した。」
マコT「しかし事態は思わぬ方向に。」  

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