便利屋
第二話 願わくば
「なんてことなの?使徒はもうそこに迫っているのに!!暴走?!」
「シンクロ率400%から動きません!!!」
発令所ではリツコ達が騒いでいる。
ミサトがリツコに問うた。
「なに?そんなに拙いの?今の状況。」
「拙いなんてものじゃないわ!!!エヴァのシンクロ率はエヴァをどのくらい自分の体のように扱えるかを現した
パーセンテージなの!!理論上、100%が限界で、それ以上になると体がだんだんエヴァに同化し始めるの!!
そして400%はもうエヴァにとけきった状態!!つまりシンジ君はエヴァに解けてしまったということよ!!」
「なっ!!それじゃあ使徒はどうすんのよ!!!」
「知らないわ!!!この暴走が収まるかどうかも怪しいのよ!!」
「そ…そんな。」
ミサトは落胆した。
このままだとサードインパクトが起きて人類は滅亡してしまうのだ。
そこにゲンドウの声が響いた。
「かまわん。出撃だ。」
「なっ!!」
「無理です!!司令!!今エヴァは暴走してるのですよ!!」
「問題ない。出撃だ。」
「っ!!…解りました…。ミサト!!出撃よ!!」
「解ったわ。エヴァンゲリオン初号機、出撃!!!」
そして初号機は出撃された。
「ここは何処だ?真っ暗だ…。」
そこは真っ暗な空間。何処までも続き、終わりなどないような空間。
シンジはそこにぽつんといた。
「あれ?」
遠くから人影が近づいてきた。シンジはそれに気づいた。
その人影はだんだん大きくなっていく。
シンジは別に逃げようともせずに、黙ってそれを見ていた。
シンジは驚愕した。
出てきたのはシンジ本人だったからだ。
「お…お前だれだよ!!」
シンジはたまらず叫んだ。
「僕?僕は碇シンジ。君であって君でないもの。」
「なんで同じ人間が二人いるんだよ!!」
「いやここは、なんていうか。心がそのまま出てくる場所だから。」
「はぁ?」
「建前がなくなり、本音だけになった世界。」
建前がなくなり、本音だけになった世界。それは心がさらけ出される世界。
「つまり、今の僕には建前がないのか?」
「そういうことなんじゃないの?」
「曖昧だな。」
「まぁね。」
向こうのシンジは人差し指をシンジの前に持ってきた。
「真実を教えてあげよう。」
その瞬間膨大な情報が頭に入ってきた。
「う…あ…なんだよこれ…。」
ゼーレ
人類補完計画
綾波レイ
水槽
LCL
ダミープログラム
渚カオル
使徒の正体
サードインパクト
セカンドインパクト
ありとあらゆる情報がシンジに入ってきた。
「こ…こんなの信じろって言うのかよ!!!」
「エヴァンゲリオン、初号機リフトオフ!!」
ミサトの声と一緒に、初号機の最後の拘束具がはずされた。
中腰の体勢で動かない初号機。
それに向かい合う使徒。
暴走している初号機。
それを見る人全員がごくりとつばを飲み込んだ。
使徒は初号機に近づき最初の接触を試みた
「信じろって言うのかよ!!」
「信じろとは言わないさ。人の数だけ真実はあるから。」
「はぁ?ありえないだろ。これが未来?」
シンジはパニックを起こしていた。
しかし何かが自分の中に入ってくるような感覚にそれは中断された。
「何だ…。何かが僕の中に入ってくる…。」
「やめろ!!!入ってくるな!!!!僕の心をじろじろ見るな!!!
やめろって言ってるんだ!!!聞こえないのか!!!!!!!」
その言葉とともに、その感覚は収まった。
向こうのシンジが口を開いた。
「君の心は強い。しかし一度貫かれると酷く脆い…。」
「それが何だって言うんだ!!」
「だから今もそれを受け入れられずにいる。支えがないから。
自分を支えてくれる何かがないから。」
「プライドも。」
「絆も。」
「記憶も。」
「家族も。」
「すべてが君を支えるためには物足りないものばかりだ。」
「ああ!そうだよ!!だからなんだよ!!それが悪いことなのか?!」
「いや。何か悲しい。」
「ふざけんなよ!!!」
「願わくば…。」
「願わくば、僕が支えになろう…。君の。」
「っ!!!」
「もう一度説明しよう。僕は碇シンジ。君のもう一つの可能性。
この世界にはいくつもの可能性があり、その中の一つが僕だ。」
「じゃあ?僕も一つの可能性?」
「いや、違う僕達がいることで曲げられた可能性。」
「…解った。僕の支えになってくれるんだろ?じゃあ、聞いてくれよ。師匠にも話したことのない話を。」
「使徒、沈黙。」
「パターン青、完全に消滅しました。」
「初号機、沈黙。」
発令所は喜びの声で満ちていた。
使徒が初号機を攻撃しようとした矢先、初号機がすさまじい攻撃を繰り出し、そのまま殲滅。
それはまさに瞬間芸といって良いだろう。
しかしリツコと、オペレーターの一人伊吹マヤは浮かない顔をしていた。
「まだまだ、これからが大変だってのに…。」
「僕が10歳のころ、師匠に仕事場に連れて行かれたんだ。情報収集の。
確かどっかの企業だったと思う。」
「……
『シンジィ。お前周りを見張っててくれ。』
『解ったよ、師匠。』
僕はその部屋を出てすぐそこの通路に出た。
確か僕はそこでつぶやいた。
『師匠…。何の情報を収集すんのかな?』
で2、30分過ぎたんだ。
確かものすごく退屈だったと思う。
脇のほうで一人じゃんけんとかそういう遊びをしてたんだ。
だからかな?
遠くから人影が近づいてくるのに気づかなかったんだ。
そこから先は一瞬だった。でもはっきりと思い出せる。
『侵入者だ!!!』
そこにいる警備員みたいなのが僕に銃を向けながら言った。
僕はそのとき初めて警備員の存在に気づいた。
警備員は躊躇せず打ってきた。
確か侵入した人は有無を言わさず殺さないといけない。そんな後ろめたい組織だったから。
僕は師匠がしてくれた訓練のおかげもあって、その銃弾は避けたんだ。
でも経験は相手のほうが上だった。そのちょっとの隙に近づいてきて、拳銃のグリップで僕を殴った。
痛かった。
ああ、痛かったよ。
でも殴られたら、とっさに反撃するように訓練してあったから。
僕は10歳とは思えない速さで反撃した。
その一撃は顔に当たった。ごきって鳴ったから多分首の骨が折れたよ。
それにそのあとぴくりとも動かなくなったし。
そこで死んだはずだった。確かに死んだ。
だけど僕はそれで終わらなかったんだ。
恐怖の反動?見たいな何かが僕を勝手に動かした。
とにかくその死体を殴った。
死体の握っていた拳銃で撃った。サイレンサーがついていたからそれで気づかれることはなかった。
携帯してたナイフでえぐった。
臓物をひねりつぶした。
全部ぼろぼろにしてやった。
正直に言おう、僕はこれが快感だった。
なぜか、気持ちよかった。
そんな自分が怖かった。
どうしようもなく不安だった。
幸い部屋のダクトから入ってきたから、その光景が師匠の目に触れることはなかった。
僕はまだとまらなかった。
骨という骨を手で握りつぶした。
頭蓋骨を拳で粉々にした。
もうそこは目も当てられなかったよ。もうそれは死体とはいえなかった。
ぐちゃぐちゃのただのタンパク質の塊だった。
返り血をいっぱい浴びたことにも気づかなかった。
だから師匠は気づいたのかもしれない。
僕は時々その夢を見る…。
そんな日はとてつもなく不安になるよ…。
支えなんてなかった。
こんな気持ちだれもわかってくれないだろうから。」
シンジは一息で話した。
今まで溜め込んでいたものを全部吐き出すように、一息で、早口に、話した。
「解るよ。その気持ち。初めて人を殺した気持ち。
僕も殺したことがある。親友をこうぐしゃっとね。」
そういって向こうのシンジは両手で何かを握りつぶすしぐさをした。
「君はもう初号機にシンクロできる。」
「母さんがいなくても?」
「ああ、君は十分な心を持ってる。」
そして向こうのシンジは奥を指差して言った。
「彼女が初号機だよ。」
「初号機のシンクロ率低下していきます!!!!」
「350、300、280、250、210、190、170、150、130、100%で固定!!」
いきなりの事態に発令所は騒然とする
「暴走は収まりました。」
リツコがその言葉に疑問を投げる
「何故?」
「解りません。原因不明。MAGIは回答を保留しています。」
「そう。急いでモニターをつないで!!」
「はい、モニター…つながりました。パイロット生存確認。」
「意識は?」
「あります。ですが…」
「何?」
リツコは作業から目を離さずに聞いた。
「パイロットが笑っています。」
「は?」
その言葉にリツコは急いでマイクのところに近づき
「シンジ君?大丈夫?」
と聞いた。
『ええ、大丈夫です、リツコさん。」
「本当に?あなたはさっきまでエヴァに取り込まれていたのよ?」
『いえ、本当に大丈夫です。それどころか今は気分が良いんです。』
「そう。」
リツコは質問をやめた。
「プラグ排出して。シンジ君?今エヴァから降りてもらうから。
それから精密検査をするから。わかった?」
『はい』
「じゃあ、待っていて。」
『はい。』
「彼女が初号機だよ。」
向こうのシンジが指差した方向から、小さな女の子が出てきた。
「なんていうか…小さいね…。」
「うん。ここは心だけの世界だから。」
そして、シンジは初号機に言った。
「やあ。君の名前は?」
「…いの。」
「へ?」
「寂しいの。あなたはずっとそばにいてくれるの?」
そういって彼女はシンジに触れた。
その瞬間シンジにとても大きな孤独が襲った。
「私には名前なんてないの。絆もないの。寂しいの。」
シンジにはその気持ちが良くわかった。
「君の名前は、ルシファーだ。」
「なんで?悪魔の名前なの?」
「ちょっとした洒落さ。相手は天使だろ?だからそれと戦う僕らは悪魔ってわけさ。」
「ふーん、良いんじゃない?初号機、君はどう思う?」
「ルシファーと呼んで。」
「じゃあ決定だ。ルシファーこれから君の力を貸してほしい。いいかい?」
「喜んで。」
「よし、これから僕らは仲間だ。僕のことはシンジと呼んでくれ。」
向こうのシンジはその光景をうれしそうに見ていた。
「もう僕は必要ないね。じゃあ、ちょっと寝るとしますか。」
そういって彼は消えた。
シンジは初号機から降りたとたんに、倒れ眠った。
寝ているあいだに精密検査は行われたそうだ。
後書き
悲しいシンジのトラウマも、向こうのシンジ君が出てきたことで
収まりました。次回もお楽しみに。
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