便利屋

第一話 使徒襲来


「ちっ。こいとか言っといて、待ち合わせに遅れるなんて、なんていい加減な親なんだ。」

まったく、これだから近所でも悪口ばかり言われるんだよ。ふぅ。どうしようかマジで。

モノレールも止まったみたいだし。待ち合わせに来るはずの葛城?さんもまだ来ないし。

そんなことを考えながら手紙と一緒に入っていた写真を見た。

明らかに露出度の高い服で胸の谷間を強調するようにかがんでいる。

しかもその強調された谷間には矢印で「胸の谷間に注目」と書かれている。

はぁ。こいつ一体親父の何?僕のストライクゾーンは、同年代から25歳までなんだけどな。

誰から見ても写真の女性は20代前半のようであった。

しかしシンジの洞察力はその女性が三十路に近いと言うことを見抜いていた。

まあいいか。とりあえず歩き回ってもだめだからここでのんびりしてよう。

そう思うとシンジはどっかと駅の階段に腰を下ろした。

そして空を見た。見ながらなにやら試行錯誤を繰り返している。

「うーん。…蒼き空は僕の心とは正反対で…。」

空を仰ぎながらぶつぶつと言っている。

余談だがシンジの趣味は作詞で、下手ながらも作詞を続けているのだ。

しかし最近は少しずつ上手になってきており入賞していたりする。

そして詩の半分が出来上がったころ、一つのミサイルが飛んできた。

爆音を上げながらシンジの頭上を高速で飛んでいく。反射的にシンジは上を見る。
こんなときシンジは自分の裏の住人としての性を悲しく思うのだった。

見なくてもいいものを見てしまう…。

今回もまさに見てしまった。少し自嘲の笑みを浮かべながら、しかし緊急事態に離れているのか
目を細めてミサイルを凝視した。

そして見た。黒い巨人を。

…うわぁ、いかにも悪の組織が作ったって感じだなぁ。

シンジはのほほんとしたことを考えながら、

「僕は怪獣映画の主人公なのかな?」

と楽観的なことを口走っていた。

そしてミサイルが巨人に当たる。派手な爆発音を響かせながらダメージを与えた…ように見えるが
シンジにはバレバレだった。

あの巨人の気がまったく減っていないのだ。ダメージなんて全然ない。

これもまたコウジが彼に教えた技術の一つだった。
気で相手の状況を確認する。

そして、ミサイルが何処から沸いているのか、数十本飛んできた。

「うわぁ。なんかやばそうだなぁ…。」

そういってさっきから効いた様子のないミサイルをあきれた目で見た。

「そろそろ逃げたほうが…。」

足には自身があったが。まあこれもコウジに鍛えられたのだが…。

とにかくその考えは断念せざるを得なかった。

壮大なスリップ音を響かせながら、スピンしながら車がシンジの前に止まったのだ。

「ごめん!待った!?速く乗って!!!」

その一言とともにあの写真の女性が車の中から現れた。

「遅いですよ?まったくいつまで待たせるつもりですか?」

と、愚痴を言いながらシンジは車に乗った。そしてついでに一言。

「後、5分でも遅ければいくら僕でも死んでましたね。」

効いたのが前の言葉か、後の言葉か、それとも両方かは知らないが、その女性は顔を引きつらせた。

「葛城さんですね?」

「ええ。そうよ。とにかく飛ばすからつかまって。」

そうして車はめちゃくちゃなスピードで道路を、暴れ馬?ロデオ?とにかくそんな風に爆走していった。







「葛城さん?あの悪の組織の奇妙な生命体は何ですか?」

とっぴなその言葉。しかもその言葉が予想にもしなかったので、彼女葛城 ミサトは思わず噴出した

その瞬間車が蛇行動を起こして、ガードレールにぶつかりそうになったとかならないとか。

「し…シンジ君?あれは悪の組織の生命体ではないわ。」

「じゃあ、あれは何ですか?」

その言葉に緩んだ顔を引き締めると言った。

「あれはね。使徒よ。」

シト?はて。シトとは何だったかな。

詩と?死と?使途?市と?

シンジはどうやらその言葉にぴんと来なかったようだ。

シンジが使徒について試行錯誤を繰り返しているとき。外で紫の巨人が出てきた。

「あ、もう一匹増えた。うーんあれはさしずめその使徒とか言うのを倒すためのロボットと言うわけですね。」

「まぁそんなとこね。」

紫の巨人は使徒に対して一進一退の苦戦を強いられていた。
どう見ても使徒のほうが圧倒的に強かった。

よって、紫の巨人は吹っ飛ばされた。

「苦戦してる…。」

「当たり前よ。今のレイには荷が重いわ。」

そんなことを言っている間に、戦闘機が使徒から続々とはなれていった。

そして紫の巨人もリフトから下に降りていった。

それを見てミサトは絶叫した。

「N2地雷使うきぃ?!シンジ君伏せて!!!」

そう言うとミサトはシンジに覆いかぶさり庇った。

しかしそこにはもうシンジはいなく、ミサトの体は空を切って、助手席のシートに激突した。

その瞬間、何処からともなく爆発し、ミサトの車は吹き飛ばされた。








「へー?あれがうわさに高いN2爆雷?たいしたことないね。」

ついさっき危険を感じて車から飛び降りたシンジは建物の陰に隠れてそうつぶやいた。

「あ、そうだ、葛城さん!!…死んだかな…?ははは?」

顔に縦線をうかべたまま、シンジは車の進行方向へ走っていった。

あった。車だ。うわぁ。さかさまになってる。葛城さん大丈夫かな。

急いで車に駆け寄ると、中から泣き声が聞こえてきた。

「う…うっ。これは私の責任だわ。シンジ君を車から放り出してしまうなんて。もっとちゃんと見とけばよかった。
 ひーん。エビチュがー。ローンが。」

これを聞いてシンジは心底あきれた。

「あいた口がふさがらないってこのことを言うのかな?」

そんなことを言いながら、「よっ」と掛け声を上げ、車をひっくり返した。

「うひゃあ!!!」

中から絶叫が聞こえた

「大丈夫ですか?葛城さん。」

「し…シンジ君?し、死んだんじゃ?」

「僕は、車から飛び降りるくらいじゃ死にませんよ。鍛えてますから。」

「うあーん。よかった。良かった。」

泣きながら。良かったと叫ぶミサト。その様子にシンジは心底あきれていた。

少しだけ腹も立てていた。

僕の心配をせずに、ビールとかローンの心配をするなんて。

良く見るとこのときシンジのこめかみには青筋が浮かんでいた。

「まぁいいです。さっさと行きましょう。」

















「なにぃ。我々のN2爆雷がきかないだと。ばっ化け物め。」

「信じられん、町一つ犠牲にしたんだぞ。」

そうやって口々に驚愕の声を上げる軍人たち。

そしてその中の一人が、何処からかかってきたのかわからないが電話の受話器を置いた。

そして言った。

「今から本作戦の指揮権は君に移った。お手並みを拝見させてもらおう。 
我々国連軍の所有兵器が目標に対し無効であったことは素直に認めよう。
 だが碇君!!!…君なら勝てるのかね。」

そして声を掛けられた主は言った。

「ご心配なく。そのためのネルフです。」

















「葛城さん。」

「ミサトでいいわよ?」

「はい解りました。で?ミサトさん?」

「な、何かしら?」

「迷ったんですね。」

そういってジト目でミサトを見るシンジ。
図星だったのかミサトは慌てて

「う、うるさいわね。あなたは黙ってついてくればいいのよ!」

とシンジに向かって怒鳴る。しかしシンジは

「へぇー。じゃあミサトさんについていくことにします。」

そういって、またジト目でミサトを見る。

「う…。」

その視線にミサトは詰まる。

天からの助けとでも言うかのように、チンッという音とともにエレベーターの扉が開き中から女性が出てきた。

金髪だ。しかし眉毛が黒いあたりから、染めたのだろう。

「何処へ行くのかしら?葛城一尉?」

「リツコ。探したのよ。」

「探したのはこっちよ。迷わないで!人手も時間もないんだから。」

「ごめんごめん。まだ不慣れでサ。」

金髪の女性はそう言うとシンジのほうを見た。

「そのこが、例のサードチルドレンね。」

シンジはちょっと癪に障った。

いきなり出てきてサードチルドレンとは何事かっ!!

それを抑えながらシンジは言った。

「あなた、僕をご存知で?」

「ええ。私は赤木 リツコ。技術一課E計画担当博士よ。」

「はい。よろしくお願いします赤木さん。」

「リツコでいいわ。それよりあなたに見せたいものがあるのよ。 
ついてきて頂戴。」

そこまで言うとリツコはすたすたとシンジの前を歩いていった。

シンジには従うしか選択がなかった。












「総員第一種戦闘配置だ。」

そう言うと、髭の男は初老の老人、冬月コウゾウの元へ歩いていった。

「冬月。後を頼む。」

「ああ。」

そして髭の男はリフトで降りていった。

冬月は眉をしかめた

(十年ぶりの再会か。)












シンジは山あり谷あり、つまり険しい道のりを歩きようやく目的地にたどり着いた。

「着いたわ。ここよ。」

そういうと見るからに広そうな一室にシンジ達を案内した。

(真っ暗だ…。)

そしてリツコがレバーを引くと同時に、部屋に光が満たされた。

シンジはまぶしく初めは何がなんだかわからなかったが、目が慣れてきたころそれを見て驚愕に少しだけ目を開いた。

「へぇ。近くで見るとりりしいね。」

そのシンジのあっけらかんとした態度にリツコは多少顔をしかめたがすぐに説明した

「汎用決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。これはその初号機よ。」

「これも。父の仕事ですか?」

そういうとふいに上から声がした。

「そうだ。」

シンジは反射的に上を見た。シンジの悲しい性が出てしまった。

「久しぶりだな。シンジ。」

だが次の言葉に、そこにいる人々は全員ずっこけた。

「あ、あんた誰?」

べつに、シンジはうけをねらったわけではない。混乱をねらったわけでもない。本当に知らなかったのだ。

「なっ!わ、私だ、ゲンドウだ。」

「はぁ?お前が俺の親父?」

そういうとポケットから手鏡を出して自分の顔を見た。

「うーん。似てない。先生から似てないとは聞いていたけども。ここまで似ていないとは。 
って言うことは僕は母さん似か!これでまた一つなぞが解決したぞ。」

シンジは納得したのか上を見て言った。

「で?僕をここに呼んだからにはそれなりの理由があるんだろ?」

「ああ、そうだ。」

「何?」

「シンジ、お前がこれに乗るのだ。」

その言葉にミサトはすぐに反論する。

「待ってください!!司令!!! 
レイでさえエヴァとシンクロするのに7ヶ月かかったんですよ!!! 
今日来たばかりのこのこには無理です!!!」

「座っていればいい。それ以上は望まん。」

「でもっ!!!」

そこにリツコが口をはさむ。

「葛城一尉!!今は使徒撃退が最優先事項よ!」

「な、何言ってんの!!」

「そのためにはだれであれわずかでもシンクロ可能な人間を乗せるしか方法はないのよ。」

「だからって!」

「それとも、他にいい方法があるとでもいうの?」

「っ!!」

ミサトはリツコに言い返せなくなってしまった。

リツコはミサトを無視してシンジに言う。

「さ、シンジ君こっちに来て。」




「嫌だよ…。」




シンジの口から出たのは冷たい拒絶の言葉だった。

「僕は忙しいんだ。そんな茶番に付き合ってる暇はないんだ。」

「なっシンジ君?」

「第一に、僕はボランティアは好きじゃないんだ。」

「なぜ乗らん。」

「だから言っただろ?僕はそんなことに付き合ってられるほど暇じゃないんだ。 
明日にも仕事が入ってるんだよ。優良な客の仕事と礼儀のなってない組織に頼まれた仕事。 
どっちを選ぶかは解りきったことだろ?」

それにミサトが口を挟んだ。

「仕事って…シンジ君あなたいったい…」

何をしてるの?といいたかったが声が出なかった。

しかしシンジは何を言いたいのかすぐに言った。

「便利屋…だよ。」




「冬月!!レイを起こせ!!!」

「まだ使えるのかね?」

「死んでなければかまわん!!速くこっちへよこせ!!」

シンジはその言葉に振り向いた。

「いるんじゃン。正規のパイロットが。」





ガラガラガラっという音と共に、担架が現れた。

「レイ。予備が使えなくなった、もう一度だ。」

ゲンドウは静かに言った。

その言葉に担架に乗っていた少女は起きた。

そしてか細い声で言った。

「…はい…。」




ドォン




天井が崩れてきた。

ゲンドウは忌々しげに言った。

「奴め。ここに気づいたか。」

そして崩れた瓦礫はレイに降り注ぐ。

「うっわ!!あぶねぇ!!」

シンジはとっさにいつもの癖なのかレイを庇った。

目をつぶって衝撃を予測した。

しかし衝撃は来なかった。

「あ…れ」

上を見ると初号機の手があった。

「…でかっ!!」

周りではミサトとリツコが騒いでいた。

「インターフェースなしで反応したというの?」

「シンジ君を守ったの?…いけるっ!!」

そんな外野の声を無視してシンジは思った。

(パイロットが女性だったなんて…誤算だ!!)

そんなシンジにミサトは声を掛けた。

「シンジ君…逃げちゃダメよ。お父さんから、何よりも自分から…。」

しかしシンジはそんなの聞いちゃいなかった。

シンジの頭の中では、レイと仲良くなる計画が次々と立てられているようだ。

そしてシンジはレイに言った。

「大丈夫かい?いまは休んでいて。僕があの化け物をぶっ潰してくるから。」

「親父!!!10億で乗ってやるよ!!」


























『冷却終了』

『ケイジ内すべてドッキング位置。 
パイロットエントリープラグ内コックピット位置に着きました!』

『プラグ固定終了!第一次接続開始!!』

着々と準備は進めれれていた

『エントリープラグ注水』

その瞬間足元から水がせりあがってきた。

「おお。何だこりゃ?」

すかさずリツコの声が聞こえた。

『心配しないで。肺がLCLで満たされれば直接酸素を取り入れてくれます。』

「へいへい。」

そういいながら、肺にLCLを取り込む。気泡が一つ上に上がっていった。

血の味がした。生臭い、死を感じさせるにおいがした。

この匂いにもなれたものだ。少し自嘲の笑みを浮かべながら、ぼうっとオペレーションを聞いていた。

『主電源接続。全回路動力伝達。起動スタート。』

『A10神経接続…なっ。A10神経接続確認されません』

『何ですって?』

その報告にリツコの悲鳴じみた声が聞こえた。

『し…しかしシンクロ開始しています!』

『どうして、A10神経は接続していないのよ?』

『シンクロ率急上昇していきます60,70,90,110,120,150,190,230,240,290,350,390,400』

『なっ、シンクロ中止、直ちに電源をおとして。』

『だめです、パルス拒絶!!!反応ありません!!!』

『どういうこと?』

オペレーションの悲鳴が聞こえたがそんなことは既にシンジはどうでもよかった。

妙に気持ちよくて、そして何処か悲しくて…。

そしてシンジの意識は落ちていった。





















「はっ!!!」

シンジは目を覚ました。

そこは病院の真っ白な一室だった。

「知らない…天井だ。」

そしてシンジはまた一眠りしようとベットにもたれこんだ。


後書き
うーむこれからの展開が気になりますねぇ(え?気にならない?)
まぁ次回もお楽しみに
感想はBBSメール で。

戻る